風しんの流行を防ぐため中年男性に対する風しん抗体検査および第5期風しん定期接種が始まります。今後3年間続けられるこの事業で、日本における風しんの流行を止めることが出来ると期待されています
風しんは2018年7月頃より東京、千葉、神奈川、埼玉といった首都圏で流行が始まり、次第に愛知、福岡、大阪でも流行がみられるようになりました。2013年の全国的な大流行の後、発症はかなり収まっていたのですが、今回はそれ以来の流行となっています。しかも報告された感染者の殆ど(96%)は成人で、その8割は男性です。風しんワクチンをしていた人はその内の7%に過ぎないといわれています。そして男性の中でも7割近くは30代、40代の成人です。つまり圧倒的に中年男性が風しん流行の主体になっているのです。
風しんは麻しんとともに非常に有名な病気ですが、最近は周りで発症することがなくなったために病気を見たことのない人が増えています。風しんは風しんウイルスによってヒトのみが発病します。症状の出ない不顕性感染は4人に1人程度あります。潜伏期間は2週〜3週で、まずは細かな斑状の発疹が顔面から体幹、四肢に出現します。この発疹は融合することのないのが特徴です。同時に頚部、後頭部、耳の後ろのリンパ節の腫れがみられ、発熱など風邪症状もみられます。発疹や発熱は大体3日程で改善しますが、リンパ節の腫れはしばらく残ります。小児では風しんは、麻しんと違ってあまり重症にはなりませんが、それでも約6000人に1人は脳炎を起こし、約3000人に1人は血小板減少症などの合併症を起こします。しかし、成人の場合は小児に較べ症状は強く出ます。発疹や発熱以外に関節痛や結膜炎も多く、合併症も起こりやすく治るまでの時間も長くかかります。
ここで風しんの流行で最も問題となるのは、周りの妊婦が風しんに感染することで先天性風しん症候群が起こる危険があるからです。先天性風しん症候群とは、妊婦が風しんにかかることで胎内感染を起こし、その結果出生児に白内障、先天性心疾患、感音性難聴、発達遅延などの重度の先天障害が起こることです。特に妊娠初期の感染で起こりやすく、妊娠1ヶ月で50%、妊娠2ヶ月で35%、妊娠3ヶ月で18%、妊娠4ヶ月で8%に起こるといわれています。
日本では1977年から女子中学生にのみ風しんワクチン接種を始めました。しかし、風しん感染を最も起こしやすい小児に接種をしなかったために、風しんの流行は全く止まりませんでした。1989年からMMR(麻しん・風しん・おたふくかぜ)ワクチンが男女の区別なく出来るようになりましたが、これも副作用のため接種が中止になり、接種は広がりませんでした。1995年からは風しんワクチンの接種対象を1歳〜7歳半までの小児とし、更に1979年以後の出生者に対する経過措置の接種も認められました。この措置で小児の流行はなくなりましたが、接種が1回のみで不徹底だったこと、また経過措置の情報伝達も不十分だったため、未接種者や成人の発症は続いてしまいました。2006年から未接種者をなくすためとワクチンの予防効果をより高めるために、1歳児と就学前1年間の2回接種が始まりました。また、2008年からの5年間は中学1年生と高校3年生にも接種が行われ、未接種者を除けば1991年以降の出生者は全て2回接種が出来たことになります。2回接種をすれば風しんにかかる可能性は殆どなくなります。現に2回接種をしている小児では風しんの流行はみられません。しかし、予防接種をしていない成人や、予防接種後長い期間がたち予防効果がなくなってしまった成人に風しんが発症し、流行が止まらないのです。特に1979年以前に生まれた男性は全く予防接種の機会はありませんでしたので、風しんにかかる危険性は極めて高くなっています。
風しんの流行を防ぎ、先天性風しん症候群を発症させないためには、妊婦が感染しないように社会全体で風しんの流行を防ぐことが必要です。今回、流行の主体となっている成人男性に対し、2019年4月から3年間、風しん抗体検査とそれに基づく第5期風しんワクチン(MRワクチン)定期接種が無料で行われることになりました。対象は、1962年4月2日から1979年4月1日の間に生まれた男性で、風しんにかかった既往がなく、予防接種の記録がなく、平成26年4月以降に風しん抗体検査を受けたことのない人です。この年代の中年男性が予防接種を受けることで、風しんの流行は確実に抑えられると思います。しかし、女性でもワクチン未接種者や抗体の値が低い人は感染の危険は同様にあります。妊婦になる可能性のある女性以外でも、対象になる方は定期接種ではありませんが風しんワクチンを接種することが勧められます。風しんの予防にはワクチン接種が有効で、かつ唯一の方法です。今回の定期接種を契機として、中年男性ばかりでなく女性も含めた一般成人が風しんワクチン接種を受けることが、社会全体の風しん予防につながるものと思います。