蚊を媒介して感染する病気は、日本脳炎、マラリア、デング熱、ジカウイルス感染症、チクングニア熱など多くのものがあります。頻度は少ないとはいえ、重症になる危険もありますので、蚊の活動期に入る5月以降は十分に注意する必要があります。
蚊を媒介して感染する病気は、感染症法では4類感染症に分類されます。4類感染症は動物等を介してヒトに感染するもので、44疾患が指定されており、発症すれば全例保健所に届出することになります。最も有名な日本脳炎はコガタアカイエカが媒介し、多くは豚を介して感染しますので、日本においては豚舎のある田園や水田地帯で発症する危険があります。蚊の活動期である5月下旬から10月の期間で、最近では温暖化の影響のためか以前はこの蚊がいないといわれていた北海道でも発症の危険性が出てきています。マラリアはハマダラカを介した感染で、本来熱帯地方の蚊ですから、日本の殆どではこの蚊は認められません。ただ、東南アジア、アフリカ、中南米などへの旅行者が現地で蚊を介して感染し、帰国後日本で発病する可能性はあります。
最近、問題になっているのは、デング熱、ジカウイルス感染症、チクングニア熱といった感染症で、2014年には国内でデング熱の流行があり、リオオリンピックの際はジカウイルス感染が心配されました。これらの疾患は、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカを媒介して発症します。ネッタイシマカは日本にいませんので、日本ではヒトスジシマカが問題になります。ヒトスジシマカの分布域は徐々に北上し、現在では青森県での存在が確認されています。平成28年の日本での発症は、10月までにデング熱293人、チクングニア熱12人、ジカウイルス感染症9人と報告されています。これらは殆ど旅行者や外国からの帰国者であって、日本国内での感染ではありませんが、これらの発症者から蚊を媒介して感染者が広がる危険性は常にあると考えられています。
デング熱は潜伏期間3-7日で20-50%の患者が発症します。血清型は1型〜4型の4つの型があります。症状的には発熱(99%)、血小板減少(78%)、白血球減少(78%)、発疹(48%)、筋肉痛(22%)といった症状で、解熱時期の点状出血、島状に白く抜ける紅斑があります。症状によって重症型デング、デング出血熱、デングショック症候群などの重症型があり、適正な治療をしないと死亡する危険もあります。
チクングニア熱は潜伏期間3-7日、20-25%の患者が発症します。臨床症状は四肢末梢の関節炎(数ケ月持続することもある)が特徴で、その他はデング熱に似ています。
ジカウイルス感染症は潜伏期間2-7日、20%の患者が発症します。臨床症状は斑状丘疹(97%)、掻痒感(79%)、関節痛(63%)、結膜炎(56%)、発熱(36%)がみられます。
感染経路としては蚊の媒介以外に経胎盤・産道感染、輸血、性行為が指摘されています。妊婦の感染による先天性ジカウイルス感染症による小頭症やギラン・バレー症候群との関連が問題になっています。
これらの病気はヒトスジシマカという蚊を媒介した感染ですから、蚊の発生を抑えること、蚊に刺されないことが大切な予防法です。蚊の幼虫発生源をなくすには
1. 雨水が溜らないようにすること
2. 週1回は必ず鉢植えの溜った水を捨てること
3. 水が溜りやすい所には塩を入れておくこと といった対処が勧められています。
このような対処をすることで夏季のヤブカの発生が大幅に抑えられると言われています。次に、蚊の屋内への侵入を出来るだけ防ぐことも大切になります。また、蚊に刺されないためには、蚊のいそうな場所に行く時は、服装として長袖、長ズボンを着用し、靴下をはいて裸足のサンダルは止めるといった処置も必要です。暑い時期には大変なこともありますが、皮膚が露出した状態では蚊に刺されることを止められません。同時に蚊の忌避剤であるディートやイカリジンといった薬の使用がとても有効であると勧められています。
蚊媒介感染症は、蚊の発生を防ぎ、蚊に刺されないようにすることで多くは発症を防ぐことが出来ます。発症頻度は少なくても、蚊の活動期間内は日本国内で蚊媒介感染症の起こる可能性はいつもあります。温暖化傾向の今日、日頃の一寸した注意が大きな病気の予防に繋がるということをお伝えしたいと思います。