クリニック通信
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2014/09
麻疹の発症に注意しましょう
- 麻疹は昔から小児ばかりでなく成人にとっても厄介な病気でした。現在はワクチンの効果により大流行することはなくなりましたが、発病すれば重篤な症状を起こし、合併症も多く生命に関わる危険のある病気です。
昨年は風疹の大流行がありましたが、今年は全国的に麻疹の発症が続いており、神戸でも発症が確認されています。
麻疹は麻疹ウイルスの感染により発症する、重度の発熱と全身に発疹が出る病気です。通常は潜伏期10〜12日を経て、当初は38℃程度の発熱、咳嗽、鼻汁、結膜充血などの風邪症状が2〜3日あり(これをカタル期といいます)、一旦解熱した後に39〜40℃の高熱と共に全身に暗紅色の発疹が出現し、次第に融合していきます。この時口腔内の頬粘膜に白い糟のようなコプリック斑がみられます。発熱は1週程でなくなりますが、発疹は改善しても色素沈着を残します。麻疹は発熱時に極めて強い倦怠感や重篤感がみられることが多く、更に合併症として肺炎、中耳炎、クループなども起こりやすく、1000人に1人は脳炎を起こします。また、治癒後数年から十数年後に重篤な脳障害を起こすこともあります。日本のような先進国では稀ですが、治療が奏功しなければ生命にも関わる危険な病気なのです。
麻疹の発症は全国的には、東京、神奈川などの首都圏と大阪、愛知などが目立っていますが、兵庫県においても平成26年1月〜8月の間に17件の発症が確認されています。神戸市でも8月中旬から7名の発症が確認されており、そのうち2名は1歳未満の乳児です。
神戸で流行している麻疹ウイルスの遺伝子型はD8型で本来フィリピンなどの東南アジア由来のタイプです。旅行者や渡航者により日本に持ち込まれたもので、今では定着してしまったようです。その他、神戸以外の地域ではアジアからのものではD9型、アフリカに多いB3型、中国からはH1型などの発症がみられています。日本で従来流行っていた遺伝子型はD5型でしたが、今は全く検出されていません。流行のウイルスの型が変わってしまっているのです。
発症した10代から30代の患者にはワクチンの接種歴は確認されていません。麻疹に対する小児のワクチン接種は2006年からは2回接種となり、2008年からの5年間で中学生、高校生まで含めた小児全体に2回接種が出来た筈ですが、接種率は幼児で95%程度、中高生では85%程度に留まっており、かなりの未接種者が残っていることになります。ワクチンを2回接種していれば麻疹になることはまずありません。現実に発症した患者は1歳未満の乳児を含め、皆ワクチンをしていないのです。麻疹ウイルスは極めて伝染力の強いウイルスなので一寸した接触でも感染を起こします。最も安全な予防法はワクチン接種ですから、接種対象の小児は必ずワクチンをして下さい。特に1歳前の乳児は母親からの移行抗体がなくなっていますので、1歳になったらすぐに麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)をして下さい。年長児の場合も1回のみで2回接種をしていない場合は任意接種になっても2回接種することを勧めます。
今はワクチン接種歴のない成人が最も麻疹の流行を起こす感染源になっています。麻疹感染では感染しても発病しないという不顕性感染はまずありませんので、麻疹に罹ったことのない、ワクチン接種もしていない成人はワクチン接種での予防が必要です。成人の麻疹は小児の麻疹よりはるかに重症になりますし、グローバル化の現在は海外との交流が活発になっていますので、流行予防と同時に麻疹から自身を守るという意味でも出来るだけワクチンの接種をお勧めします。
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