新型インフルエンザの今後の課題
本年5月中旬に発症した兵庫、大阪の高校生を中心とした新型インフルエンザは、現在終息段階に入っています。5月末からは新規の患者は殆どなく、学校・幼稚園・保育園の登校・登園が始まっても、単発の感染があるだけで再び流行が起こる気配は今のところないようです。ただ、今回の関西での新型インフルエンザの流行は、社会生活や経済活動に大きな影響を及ぼしました。今後の新たな流行を抑えるため、その対策に関しては、いくつかの課題が残ることになりました。
本年5月連休明けからの日本での新型インフルエンザの流行は、当初の外国からの帰国者の発症よりは、兵庫、大阪の高校生の間に集団感染が起こるという別な局面が主になってしまいました。伝染の経路からすれば、始めて日本で発見された成田空港の乗客から感染が広がったというより、それ以前に関西には新型インフルエンザウイルスがすでに入っていた可能性が高いからです。
日本では、すでに360人を越える感染が確認されていますが、多くは兵庫、大阪の高校生の間での集団感染です。しかし、5月16日からの1週間の高校、中学、小学校、幼稚園、保育所の休校、休園の措置により、流行は急速に終息に向かうことになりました。一部の高校は2週間の休校となりましたが、それも5月末には解除されています。
神戸市では、感染蔓延期の直前との宣言が出され、5月22日からは指定医療機関以外の一般医療機関でも新型インフルエンザの患者を診ることになりました。しかし、幸いなことに流行の終息傾向があったため、殆ど新型インフルエンザの患者を診ることは無くなりました。神戸市では5月28日に安全宣言が出されましたが、まだ終息したとする宣言は出ていません。終息宣言が出るまでは、感染防御の体制は続けることになりそうです。
新型インフルエンザは、症状経過からは弱毒型とされ、季節型インフルエンザと同様の対応でよいとされていますが、一部の人では悪化する可能性が指摘されています。呼吸器疾患、糖尿病、妊婦などの人は重篤化する恐れがあると言われており、注意する必要があります。今のところは、タミフル、リレンザなど抗インフルエンザ薬に対する耐性もなく、日本で重篤化した人はおりません。ただ、今後は今回のように軽症で済むという保障はありません。今回の関西での新型インフルエンザの流行は、社会生活や経済活動に大きな影響を及ぼしました。予想されなかった集団発症により、その対策に多くの不都合がみられました。今後の再発防止のためには、いくつかの課題を解決していく必要があります。
■新型インフルエンザの今後の課題
現在の新型インフルエンザ対策ガイドラインは、元々強毒性である高病原性トリインフルエンザを対象として作られており、今回のような弱毒型の場合には対応しきれないところがあります。今回は感染の早急な拡大により、一部指定医療機関の発熱外来や入院管理はすぐにパンク状態になり、対応しきれなくなりました。その結果、神戸市では蔓延期直前ということで一般医療機関も参加することになり、受診者の分散により状況の改善がみられました。しかし、今後強毒性の新型インフルエンザが出現した場合、設備や器具で劣る一般医療機関が今回のように治療に参加出来るかは疑問です。弱毒型と強毒型では対策に差があっても当然です。社会がパニックにならないよう保健行政の明確な方針提示や早急な指導対策が必要と思います。
新型インフルエンザは、現在、冬になりつつあるチリやオーストラリアで患者が増えています。日本でも今後冬になれば季節性インフルエンザと新型インフルエンザが同時に起こると予想されます。新たに感染が広がることで、ウイルスが更に変化し、より感染性が増悪する可能性はあります。また、強毒性である高病原性トリインフルエンザとの接触で、強毒性ウイルスに変化する危険性もあるので、これからのウイルスの変化は常に検証していかねばなりません。更に、現在のAソ連型インフルエンザウイルス(H1N1)は殆どがタミフル耐性です。新型インフルエンザウイルス(H1N1)も今はタミフルが有効ですが、いつ耐性を獲得するかは分かりません。今後はタミフルばかりでなくリレンザの備蓄も供給量を保つためにはとても大切になると思います。
また、新型インフルエンザに対するワクチンが速やかに開発されるかどうかも今後の課題です。現行のインフルエンザワクチンと新型インフルエンザワクチンがいつ接種出来るかは、今後の予防の面からも重要な要素になると思います。
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