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生肉による病原性大腸菌感染に注意しましょう
生の牛肉料理を食べた後に病原性大腸菌感染、
特に腸管出血性大腸菌感染になり、
溶血性尿毒症症候群や急性脳症を発症し
死亡する報告が日本中を驚かせています。
原因は肉に付着していた腸管出血性大腸菌と
考えられていますので、
抵抗力の弱い小児は生肉を食べるのは
やめる方がよいでしょう。
平成23年4月、富山県、福井県、神奈川県で生の牛肉(ユッケ)を
食べた小児や成人が相次いで食中毒を起こし、
4人が死亡するという事件がありました。
原因は生の牛肉に付着していた
病原性大腸菌O111による感染と考えられています。
大腸菌はそもそも腸内で消化を助ける
正常細菌叢を作っている一般的な細菌です。
ところが一部の大腸菌の中には病原性を持つものがあり、
下痢、嘔吐、発熱などの感染性胃腸炎の原因になっています。
これらの大腸菌は病原性大腸菌として
一般の大腸菌と区別されています。
大腸菌そのものはグラム陰性桿菌で約180の種類があり、
一般的には表面糖鎖であるO抗原により血清型分類されています。
病原性大腸菌は症状や病原因子などから5つのグループに
分かれていますが、その中で最も重症な症状を起こすのが、
腸管出血性大腸菌(EHEC)のグループです。
EHECは1980年代にアメリカで流行を起こして知られるようになり、
日本でも1996年に大腸菌O157の集団発症が堺市を中心に起こり、
大問題になりました。
その後も発症は消えることなく、今でも全国では
毎年3000〜4000例の届出がされています。
発症年齢ではやはり抵抗力の弱い4歳以下の乳幼児や
高齢者の発症が多いと報告されています。
腸管出血性大腸菌感染はO157をはじめとして
いくつかの菌種が知られており、
日本での報告ではO157が70%、O26が20%、今回原因となった
O111は4%程度とされています。
EHECの感染力は極めて強く、O157では菌数100個、
その他のものでも菌数1000個で発症するといわれています。
感染性胃腸炎の他の菌種、例えばサルモネラ菌では発症に
必要なのは菌数100万といわれていますので、
いかにその感染力が強いかわかると思います。感染源としては、
牛、羊の食肉が多いとされています。
これらの家畜の腸内にはEHECが常在的に住みついており、
その結果食品加工の段階で食肉が汚染される
可能性があるからです。
飼育牛の20%程度はEHECの保菌状態にあるという
報告もみられています。
その他、牛の糞に汚染された牛乳、野菜、果物などでも
原因となることはありますし、患者の便により二次感染を
起こすこともあります。
EHECに感染すると半数は3〜5日の潜伏期間後に下痢、腹痛、
血便で発症します。
もし感染した菌数が多ければ、もっと早く発症するかも知れません。
ただ、EHEC感染の最大の問題は、単に下痢だけで収まらず
感染者の数%に溶血性尿毒症症候群(HUS)や急性脳症など
重篤な合併症を起こす危険性があるからです。
HUSは溶血性貧血、血小板減少、無尿などの腎不全となり、
命に関わることも少なくありません。
脳症に関しては更にその治療は困難です。
このようなHUSや脳症になる原因はEHECの出すベロ毒素(VT)で、
VT1、VT2の2つの型があります。VTはそれ自体で、
また様々な炎症物質を誘発することで腎臓や脳の細胞に
障害を与えるとされています。
EHEC感染は生肉の摂食に関係することが多く、特に
抵抗力の弱い乳幼児や高齢者が発病し易くなります。
EHECそのものは熱には弱く、75℃1分の加熱で死滅します。
それ故、十分加熱した肉から発症する可能性は
まずありません。
勿論、不十分な加熱や生肉が付着した野菜では
感染の危険性は否定出来ませんが、
生肉よりははるかに危険性は少なくなります。
ただ、基本的には小児に関しては
生肉を食べることはやめる方がよいでしょう。
特に乳幼児は抵抗力が弱い訳ですから、
いくらきちんと処理された肉であっても、
生で食べることはやめるべきと思います。
EHECによるHUSや脳症の予防は、
EHECを身体に入れないことが大切で、
それにはまず生肉の摂取をやめることが第一と思います。
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